Facebookが仮想通貨リブラを発表してから、様々な国の政府や金融機関がそれぞれの立場から様々なコメントを発表しています。
色々な立場から、Facebookのユーザーは全世界に24億人いるため国を横断した巨大な通貨圏になる可能性があること、ビットコインやイーサリアムといった既存のメジャーな仮想通貨と違ってペッグされているStablecoinであるということなどの問題に対して肯定否定を交えた意見が挙がっていますが、AMLへの取り組みに対する懸念に置いては一致しています。
既存の金融機関を介した海外送金は現在厳しく管理されています。
ブリッジ通貨となるべく活動してきたRipple社CEOのBrad Garlinghouse氏は、リブラを「消費者や企業にとってとても有益」と評価する一方で「市場に対して非常に支配的な態度を取っている」と批判しています。
リブラ、リップルはいずれも海外送金に強みを持つという仮想通貨ですが、リップルがこれまで既存の金融機関のネットワークと協調し、AMLを地道に実施して来たのに対し、リブラのプロジェクトに参加している28の企業の中に金融機関は1社も入っていません。
仮想通貨はこれまでにも、その捕捉されにくい特性から「マネーロンダリングやテロ組織への資金提供」といった問題が付きまとっており、Ripple社CEOの批判もそれを念頭に置いたものです。
しかしながら、既存の金融ネットワークと組むことを良しとしない考えの人たちからは反論も出ています。なぜなら、仮想通貨業界の対策の甘さを指摘している銀行をはじめとした既存の金融業界は、過去にその対策の甘さから度々制裁を受けているからです。
仮想通貨ニュースサイトのCCNでは、過去に銀行などの既存の金融機関や政府がテロ組織に資金を流出させ、罰金等の制裁を受けた事例を挙げています。
金融機関に課された罰金の一例として、
1.Wachovia(2011年にWells Fargo & Companyに)
メキシコの麻薬カルテルにAMLを適用しなかったことにより、3,780億ドル(当時のレートで約41兆円)の資金洗浄を行う。2010年に約1億6000ドル(約140億円)の罰金の支払い命令を受ける
2.JPモルガン
キューバやイランへの経済制裁に違反したとして、2018年に58億ドル(約6,500億円)の罰金の支払いを命じられる。
3.HSBC
テロ組織や、麻薬カルテルに資金を投入したことを理由に、2012年に19億ドル(1,520億円)の罰金の支払いを命じられる。
政府が行なった資金提供の例として、
1.オバマ政権下に、スーダンのアルカイダの加盟組織に20万ドルを送金
2.2001年に起きた911のテロの4ヶ月前に、タリバンへ4,300万ドルの資金提供を発表
こうした事例を挙げつつ、「仮想通貨を『マネーロンダリングやテロ組織への資金供与というリスクを孕んでいる』という観点で批判するのであれば、仮想通貨より先に既存の金融機関や政府の体制を見直すべきではないか」といった主張を展開しています。
三菱UFJ銀行のアメリカの支店も、違法性の指摘や制裁金の支払いといった罰則こそありませんでしたが、今年2月にアメリカの通貨監督庁からマネーロンダリングへの対策が不十分であるとして、取引監視のプログラムの見直しなどの命令を受けています。さらに日本国内に限れば、2018年に報告された「マネーロンダリングと思しき取引」は年間40万件超、そのうち銀行を介しての取引は35万件弱になります。特に地銀ではそのKYCの緩さが度々問題となっています。
前述の金融機関のように、具体的な関与が認められた場合は巨額の制裁金の支払いを命じられるということもあり、AMLといった理由だけでなく経営上からも十分なインフラの構築が求められます
仮想通貨業界と銀行といった金融業界の新旧が、勢力争いのためにお互いを批判していますが、これを契機に双方のAMLに関する取り組みがより強化されることが望まれています。